ミステリアス
そっか……。私、耕助の事が好きだったんだ。
小さい頃からずっと一緒にいたから胸キュンなんて起こらなかったけど、一緒にいた毎日が好きでいっぱいだったんだ。
でも今はお互いの環境も違うし、全く知らない別々の世界を見ている。
耕助はかっこいいからきっと素敵な彼女がいるんだろうな。
背の高い耕助の隣に立つのは、すらりとしたモデルのような女性。
そう思うと涙が出そうになって……。
私は自分の恋心を悟られないように、カクテルを飲み続け、涙で滲み続ける夜景だけを見つめていました。
「こころ」
耕助が私の名を呼んでいます。その低音の心地よい響きに、うっとり。
とろんと溶けてしまいそう。
「こころっ」
「んっ?」
「飲み過ぎ。顔真っ赤だぞ」
慌てて視線を上げた私。窓ガラスに映っているその姿。
ぼんやり映っているだけなのに頬が赤くなっているのがわかりました。
それくらい私の体は熱を帯び、それに伴うように目の前が揺らぎ始めました。
「ごめん、耕助。私、もう帰るね」
私は耕助と一度も視線を合わせる事なく、BARシャーロックを出ました。
これ以上一緒にいると『好き』という言葉が桃の果汁のように滴り落ちてしまいそうだったから。
冷たい風が私の頬を叩いていきます。