多重人格者【完結】
≪………は?≫
訝しげな顔で、カンナは殺樹を見るが、殺樹はカンナを一切見ようとはしなかった。
≪………≫
それしか言う事はないというように、殺樹は口を閉じると押し黙る。
カンナはもちろん、その答えに釈然としない。
≪どういう意味?≫
そう尋ねるけど、それはスルーされてしまった。
また、イライラしながら爪を齧る。
パチンパチンと鳴らしながら、言葉の意味を考えた。
(…殺樹は出るタイミングを窺っていたって事か?
それはどうして?)
カンナは何度も何度も爪を鳴らす。
そして、それをぴたりと止めた。
何故なら、ある仮説に達したからだ。
(………)
その仮説が浮かんだと同時に、カンナは殺樹を自然と見つめていた。
カンナの視線に気付いた殺樹が、一度カンナを見る。
カンナの心の中を見透かした様に。
ニヤリと微笑んだ。
その笑みに、カンナは背筋がゾクリとする。
(…こいつは)
カンナは、その日、初めて恐怖という感覚を味わっていた。