多重人格者【完結】
「草野君…」
「お待たせ」
「い、いえ」
「はは、タメなのになんかよそよそしくね?」
「…そっ、そんなこと」
「ま、いいや。行こうよ」
「はいっ!」
踵を返す草野君の後ろを、慌てて私はついていく。
“行くな!”
「つっ、…」
何?
また、響く声。
何て言うか、透き通った声。
鮮明に、クリアに脳内に響き渡る。
耳というよりも、頭に直接音の信号を与えているような、そんな感じ。
「どうした?」
立ち止まる私に気付いた草野君が、訝しげに私を見て尋ねる。
「何でも!」
そう言いながら、大袈裟に手を振って私は草野君の元へと急いだ。