多重人格者【完結】
「俺はあやめの全てが欲しいんだ」
それを理解するのに、少し時間が必要だった。
平然と言いのける殺樹にも、その言葉にも。
「……す、べてって」
ああ、どうやら俺は想像を絶する事があると、うまく頭が回らないらしい。
カンナとの初めての対面も然り。
「だから、草野君は何もしないでくれるかな?」
「……」
俺の質問に答えるつもりはないらしい。
そう言うと、殺樹は前を歩いて行く。
その後ろから俺は殺樹の背中をじっと見つめた。
全てが欲しい。
そして、俺には何もするな。
……こいつも、カンナが殺そうとしてるのを気付いてるのか?
いや、知ってたとして。
あやめが殺人を犯してしまったら、どうなるかぐらいわかるだろう。
なのに、どうして。
こいつの考えている事がわからない。