多重人格者【完結】
それから、どれだけ時間が経ったかはわからない。
だけど、人の気配が扉の奥からした。
誰かが来たんだ、そうぼんやりと思う。
コンっとノックの音がして、びくっと肩を揺らす。
すぐに後ろを振り向くと、
「あやめ?ご飯はどうする?」
と、母親の声が聞こえたので、ホッと胸を撫で下ろした。
「大丈夫」
「そう、冷蔵庫にあるからお腹空いたら食べて頂戴ね」
「…うん、ありがとう」
「おやすみ」
「あ。お母さん」
私はドアノブを捻ると、扉を開ける。
その奥に見えたのは母親の笑顔でなく、ヒッと後退り怯えた顔だった。
「……あ、ご、ごめんなさい、何かしら」
「…………ううん、何でもない。お母さん。おやすみなさい」
「そう、おやすみなさい」
母親は無理に笑顔を作ると、そそくさと寝室へと入って行く。
パタンと扉をしめてから、私の頬を伝うのは涙だった。