多重人格者【完結】
「カンナ、ざまあだな。
撒けたと思ってたみたいだけどーーっ」
「え?」
私と言うよりも、私の中の住人に声をかけている様に見える。
それだけ言うと満足したのか、草野君は踵を返す。
「何でもない、さ。行こうか」
「……昨日、会ったの?」
「んー?うーん、会った様な」
「教えて、私は何をしてたの?」
隣を歩く草野君にそう問いかける。だが。
「知らない方がいいよ。
…カンナはただ、あやめが傷付くのを楽しんでるだけだから」
優しく微笑んでそう言うだけで、私の質問には答えてはくれなかった。
やはり、昨日はカンナが出たんだ。
胸がきゅうっと痛む。
私の知らない所で何かが起きている。
それが、これほど怖いと思わなかった。
何かがおかしいとは思っていた時とは違う。
ハッキリと別の人格が私の中にいると自覚してからの“コレ”は恐ろしいモノだと。
爪が手の平に食い込む。
奥歯を噛み締める。