多重人格者【完結】
「これからは、あんな事しないで」

「……」

「それから、もしも一緒にいるなら私以外が何をしていたかちゃんと教えて」

「…え?」


歪んでいた草野君の顔が、私の言葉に緩む。
呆気に取られているのか、口を開けたまま私を食い入る様に見つめていた。


「それが約束出来るなら、一緒にいる事も何も言わない」


吃驚して目を見開くと、草野君は口をパクパクとさせている。
その姿に口元が緩んだ。

…私の知らない草野君ばかり見て来たけど、私はやっぱり草野君が好き。


これは理屈じゃないんだ。
好きだと、口にする事は多分一生ないし、言うつもりもない。




「…あやめ」

「行こうか、草野君」

「……ああ」

まだ、信じられない様子の草野君は半信半疑で私に付いてくる。
ちらちらと私の表情を窺う草野君に思わず吹き出した。
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