(仮題)アイネクライネ
「それじゃあ。行ってくるね」
玄関にたたんだ黒い自転車とドアを開いて、わたしは猫たちに振り向いた。
「ニャー」と返事をするのは、白猫ルーク。
ただアクビをして返事をするのは、黒猫マチルダ。
肩にかけたメッセンジャーバッグをかけ直し、わたしは自転車にまたがる。
空が広く青い。
朝日がすごく眩しくて、思わず目をつむった。
朝の冷たいにおいがヒンヤリと喉をさす。
アパートを出て【画廊NOBARA】へは、長い下り坂をおりて、川沿いの桜並木をまっすぐ走る。
下り坂の風が頬をさす。
平らな道の風も、頬を冷たくさした。
やっぱりトレンチコートではまだ肌寒いな、って思う。
でも。
川沿いの桜並木のつぼみは、日に日に膨らんでいるような気がする。
春の訪れが待ち遠しい。