(仮題)アイネクライネ
コタツの中へ腰をおろしながら、咲良さんがわたしをみた。
「そうだったっけ?」
「え?なに、そのとぼけた顔…」
「朝ごはん食べた?」
「食べた。…じゃなくってー!」
突然、ニヤリと咲良さんが不気味に微笑む。
どれぐらいの不気味さかというと、わたしの背筋にビリビリと寒気がのぼりはじめたくらい。
「あー、ごめんごめん。少しいじわるしたかっただけ」
あんたすぐ調子のるからさぁ、と言ってわたしの頭をポンと叩いた。
「…なんのこと?」わたしが首をかしげると、咲良さんがニカッと歯を出して笑う。
「売れたのよ、あんたの絵!」
ーーーえ。
「美大を卒業して、画廊に絵を置くようになってから2年、か」
咲良さんの言葉がスローモーションに聴こえる。
「ゆ、め?これは…、ゆめ?」
自分の頬を指でつまんでみる。
「…痛い…」
「もう少し喜びなさいよ、瑞希」
めんどくさそうな表情をした咲良さんがわたしの顔をのぞく。
「だって…」
あー…、泣きそう。両手で顔を思わず覆う。