狡い年下に絆されて
狡い年下に絆されて
「わっこ先輩ー!お疲れ様ですー!」
「こら、大声出さない、走らない」
「わー!怒られたー!」
「なんで怒られて喜んでんのよ、」
定時を知らせるベルが鳴る。
それを合図に一斉に、コートを着込んで鞄を掴む。
“定時退社”が合言葉のうちの部所。
所長、部長を筆頭にさっさとフロアを後にする。
人混みのエレベーターホールで私は長い溜息を吐いた。
一陣のエレベーターに逃げるように乗り込むのが今年の5月からの日課になっていたのに、今日は途中で課長に捕まって出遅れたのが運の尽き。
「久しぶりですねー」
「そうね」
会わないようにしてるからね、と、心の中で呟く。
「帰り、ご一緒してもいいですか?」
「寄るとこあるから、また今度」
「今度っていつですか?」
「さぁ、」
同じ階の他部所に入った新卒社員。
名前は久我 凛太郎(クガ リンタロウ)。
入社後、一週間だけうちの部所にも研修に来たこいつの教育係に任命されたのがきっかけで、少し喋るようになった。
「えー、わっこ先輩冷たい!」
「はいはい、お疲れ様」
懐っこい笑顔と物腰柔らかい口調で敵を作らず、噂に聞く限りでは仕事も卒なくこなしている様子。
補足して、こいつは女子社員にモテる。
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