狡い年下に絆されて
研修の最終日、お腹が空いたと漏らす彼を夜ご飯に誘った。
最後まで頑張ったご褒美に、軽い気持ちで。
お酒も入ってご機嫌に、一生懸命喋るもんだから。
いつの間にか私も楽しくなって、隙を見せてしまった。
店での会話からお互いの家が近いことが分かっていた私達は、日付も変わった夜道を自然と一緒に帰る流れになって。
近道になるからと誘われて何年かぶりに足を踏み入れた公園で、5歳も年下の男に完全に不意を突かれた。
「待ってよ!和子さん!」
足早に路地に駆け込む私の腕を掴む大きな手。
力ずくで振り払ったところでもう一度名前を呼ばれて、足を止めた。
「あの時のことは……本当にごめん、なさい」
酔ってた、とか、魔が差した、とか。
そんなありきたりな理由でやってしまったキスのひとつやふたつ。
私だってもう大人だ、なかったことにするくらいできる。
……できる、はずなんだ。
「でも俺、後悔してないです」
それなのに、もう半年も私はこいつから逃げている。
仕事で話す時もできるだけ目を合わせないように気をつけて、仕事終わりは誰よりも早くフロアを出ていた。
怖かった。
あの時、近づく距離を拒まなかった私自身が怖かった。
「俺、和子さんが好きです」
真っ直ぐに射抜いてくる強い視線に押されるように一歩、後退る、けど、どうやら逃げ場はないようで。
「そんな顔されると、期待しちゃうんですけど」
背中には冷たいコンクリートの感触。
すかさず顔の左右に伸ばされた腕は、見た目と違ってちゃんと逞しい“男の腕”だった。