業務時間外の戯れ
「この雑貨の名前、違ってるじゃないですか。いい加減にしてくださいっ」

「わかりましたよ。やりますよ、ちゃんと」

おかげで残業が増えてしまった。

社長も小湊先輩も帰り、結局わたしと高梨さんだけとなった。

「さて、終わりましたよ。じゃあ、帰ります」

すくっと立ち上がる。背の高い人だとわかってはいるものの、細身な体だな、と少し胸が騒ぐ。

高梨さんはカタンとタイムカードを押して帰ろうとした。

わたしは立ち上がり、駆け足で開け放たれた事務所の入口の真ん中に立ち、引き戸の端に右手をつくと、通せんぼをした。

「軽い言い方辞めてほしいんですけど」

「は? 何いってんの」

高梨さんは小首をかしげている。

そしてすぐさま大きな声で笑った。

「どうだった? 優越感は」

冷静に発する高梨さんの声はいつも話をする声でなく、どこから声が出ているのかというぐらいの低音だった。
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