業務時間外の戯れ
「えっ」

「わざとだよ。ミスばっかりするのは。詩織ちゃんと近づくために」

「何いってるんですか」

「簡単なミス、やらないから」

「……って、そんな」

「そういうこと」

くすくすと高梨さんは笑う。

「オレは詩織ちゃんと二人っきりになれただけでうれしいんだけどな」

「ホント、最低っ」

にらんでみると、高梨さんはドアにかかる手首をつかんだ。

「ちょっと痛いですって。離してください」

「そうやっておじさんをからかうもんじゃない」

手首をつかまれたまま、事務所の中へひっぱられ、近くの壁に背中を押しあてられる。

高梨さんはわたしの右側の壁に手をついた。背の高い高梨さんに囲まれている。

「からかってなんか……」

「どうした。そんな目しちゃって。どういう状況かわかってんのか?」

高梨さんの口元が笑っている。けれども目は笑ってはいなかった。

「そうやって彼氏に迫るわけ?」

「彼氏なんていないです」

「彼氏いないのか。かわいいのに」

何いってるの、と言いかけた瞬間だった。
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