業務時間外の戯れ
「こういうのはな、こうやるんだよ」
壁に大きな音をたてて手をつく。
ジャケットから伸びる腕、太くたくましい指先をみる余裕も無い。
顔が近い。まつげが長いんだな、と気付く。まつげからのぞく瞳が茶色くきれいだ。
ゆっくり鑑賞する暇も無く、その肉厚な唇をわたしの唇に押しあてた。
「ん……、あっ」
鋭いようでやさしく、甘いくちづけは、体の奥底で眠っていたもう一人の自分が目を覚ました気がした。
「どうだ。どういう気分だ」
「最低」
「そうしてほしいって思ってたくせに」
そういうと今度は軽くついばむようにキスをした。
「素直になれよ」
甘い低音が耳元に流れ込む。
じわりとしたその響きに身も心もとろけそうになる。
「オレは初めて会ったときから詩織ちゃんのこと、好きなんだけど」
「高梨さん、わたし……」
「じゃ、続きするか? このあと」
「……はい」
「よくできました。このあと、じっくりと告白聴かせてもらおうか」
そういうと、右手の親指の腹でわたしの唇を触った。
*
「だから、ちゃんとやってくださいっていってるじゃないですか」
「はいはい。その借りはちゃーんとあとで返すから」
また肩を震わせながら、いやらしい笑みをこぼす。
闇のような夜の顔をしのばせて。
業務時間外に必ず『遊び』がやってくる。
わたしたちだけの秘密の特別な戯れだ。
(了)
壁に大きな音をたてて手をつく。
ジャケットから伸びる腕、太くたくましい指先をみる余裕も無い。
顔が近い。まつげが長いんだな、と気付く。まつげからのぞく瞳が茶色くきれいだ。
ゆっくり鑑賞する暇も無く、その肉厚な唇をわたしの唇に押しあてた。
「ん……、あっ」
鋭いようでやさしく、甘いくちづけは、体の奥底で眠っていたもう一人の自分が目を覚ました気がした。
「どうだ。どういう気分だ」
「最低」
「そうしてほしいって思ってたくせに」
そういうと今度は軽くついばむようにキスをした。
「素直になれよ」
甘い低音が耳元に流れ込む。
じわりとしたその響きに身も心もとろけそうになる。
「オレは初めて会ったときから詩織ちゃんのこと、好きなんだけど」
「高梨さん、わたし……」
「じゃ、続きするか? このあと」
「……はい」
「よくできました。このあと、じっくりと告白聴かせてもらおうか」
そういうと、右手の親指の腹でわたしの唇を触った。
*
「だから、ちゃんとやってくださいっていってるじゃないですか」
「はいはい。その借りはちゃーんとあとで返すから」
また肩を震わせながら、いやらしい笑みをこぼす。
闇のような夜の顔をしのばせて。
業務時間外に必ず『遊び』がやってくる。
わたしたちだけの秘密の特別な戯れだ。
(了)