「私は貴方のモノ」【完結】
「多恵、中にいるんだよね?」
「……」
「解放しろとか…言わないから一度多恵に会わせて」
「……」
その言葉も無視して、俺は陽子の横を通り過ぎた。
引っ越し、するしかねえな。
家がバレて毎日の様に来られても面倒だ。
タエを外に出すつもりはないし、タエも出る事はない。
だから、鉢合わせする事はないと思う。
それでも、少しの可能性を潰しておきたかった。
タエが俺から離れる、可能性を。
玄関の扉を開けて部屋に入ると、カチャカチャと何か音が聞こえた。
それと一緒にトントンと包丁の音がする。
……料理してるのか。
リビングに向かうと、キッチンに立っているタエがこっちを見て「お帰りなさい」と言った。
そのタエに俺は引っ越しする事を伝える。
「引っ越しするかも」
「え?」
タエは手を止めると、驚いた顔で俺を見る。