シークレットキス
「んっ……」
小さなエレベーターの中、彼と壁に挟まれて交わすキス。
触れる唇からは彼の吐息が流れ込み、その肌の匂いと髪の匂い、ほんのりと香る香水の匂いが頭の中を埋め尽くす。
ひどく甘いキスに全身は溶けそうになり、力の抜けた手元からはバサバサッ……と書類が落ちた。
床一面に散らばった紙、それを気にする素振りもなくキスを続けると、その左手が私の眼鏡をそっと外す。
あぁ、書類を拾わなくちゃ。眼鏡を取り返して、この唇から逃れなくちゃ。
そう思うのに、逃げられない。
この腕を振り払うことも、キスを自分からやめることも出来ない。
だって平静を装う顔の下で、私はいつだって、この瞬間を求めているのだから。
「……、」
どれほどそのまま、キスをしていただろうか。そっと離された二人の唇の間には、熱い息が交じり合う。
「……嘘つくなんて、最低ですね」
「心配してくれた?」
「……」
そんなこと、聞かなくても分かってるくせに。私の気持ちが、その一言にどう動くか、なんて。
彼が仕事と言いながら他の女性に近付いたり、嘘をついて痛がったり、それらは全て私の気を引こうとしてやっていること。
そしてそれに、嫉妬をしたり、心配をしたり、といちいち揺さぶられてしまう自分が、少しにくい。
分かっていても、動くこころ。それは彼への愛情。