キスは媚薬 Ⅱ
それなのにある日のお茶の時間、同僚の

一言で全てが変わった。

「花ちゃん、彼氏できた?」

頬を染め、童謡する彼女が俺を一瞬見て

いた。

俺に聞かれたくなかったのか、給湯室へ

消えていく。

他に男がいるくせに初心な振りで俺を落

とそうとでも思っていたのかと怒りで我

を忘れて彼女を追いかけた。

シンクに手をつきため息を吐く彼女。

(はぁ〜)

「そのため息ってなに⁈」

彼女が振り返る。

「別に、なんでもないです。」

怒っている俺は、彼女の態度にさらにイ

ラついた。

扉から数歩の距離を一気に縮め、1人し

か通れない通路で彼女を閉じ込める。

「先輩‥‥あの、どいて下さい。」

反抗的な態度の彼女を壁に押し付ける。

「ッ、痛い。」

痛がるが、それどころではなかった。

「花ちゃん、彼氏できたの?」

君にとって俺は何だったんだ⁈

暇つぶしだったのか?

初心な振りで、俺を惑わし楽しかったの

か?

遊びならお互いさまなのに、彼女とキス

を重ねる度に本気になっていたと気づい

た。

唇を噛み締め、俺を睨む目に身体中がゾ

グっと高揚する。

「先輩が彼氏じゃないなら、誰が彼氏な

んですか?私には、いないってことです

よね」

彼女は、何を言っているんだ⁈

俺以外に男はいないってことなのか⁈

突き飛ばされながら逃げだす彼女の腕を

掴み引き戻すと壁と腕の間に拘束する。

背の低い彼女に合わせ鼻先が触れ合う距

離まで顔を近づけ確かめる。

「俺のこと好きなの⁈」

真っ赤に頬を染め、言葉を探す彼女。

「………す…き‥」

瞬間、唇を塞いでキスを重ねていた。

「んっ〜ん」

逃げようとする唇…彼女の顎を指でつか

むように押さえ拘束する。

「はぁ‥んっ‥ダメ‥‥んっ」

誰かに見られてもいい。

ダメと言いながら、言葉とは裏腹に襟に

しがみつき、立っているのが辛くなるま

でキスに応える彼女。

本当にイヤなら、舌を噛めばいい。

胸を叩きつければいい。

抵抗しない彼女の頬、首筋に何度もキス

を落としていく。

嬉しさでここがどこだかも忘れ夢中にな

っていた。

「花ちゃん、仕事頼めるかな⁈」

突然、入り口から声が聞こえる。

慌てて距離をとるが同僚は笑みを浮かべ

る。

「あっ、ごめん。お邪魔だった⁈」

完全に見られていたようだ。

「あっ、いえ。…今、行きます」

上気せた表情で返事をし出て行こうとす

る彼女。

同僚は、彼女の表情を確かめ俺を見る。

「そいつの用事終わってからお願いね」

そんな顔で戻ったら何があったかなんて

一目瞭然だからか、ちゃんとけじめをつ

けろということだろう。

だが、彼女は沈黙に耐えられず、逃げよ

うする。

『ドン‥』

手で彼女の逃げ道を塞ぐ。

「この唇、他の男に触れさせるつもりな

いからな」

彼女の唇を親指でなぞり、優しく触れる

だけのキスを唇に触れる。

お前に触れていいのは、俺だけだという

俺の意思表示だ。

お前を離すつもりはないから、覚悟しろ

よ。

放心している彼女の頭を撫で、給湯室を

後にした。

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