跡にも咲にも
これが毎日の私と廉くんのやり取り。
それだけで満足した私は立ち上がってエプロンをつけなおした。
「さ、廉くん起きて。朝ごはんできてるよ」
私はそう言ってもう一度にっこり笑うと廉くんが大好きな(たぶん)コーヒーを準備すべくリビングに戻った。
結婚祝いで私の両親がくれたコーヒーメーカーに豆をセットする。
スタートのボタンを押すとすぐに香ばしい香りが広がった。
「うん、ステキ」
今日もいい一日が始まりそうだ。
しばらくするとスーツを着た廉くんが部屋から出てくる。
ネイビーのスーツがこれまた似合っている。
私は一瞬うっとりしつつも廉くんがテーブルに着くのに合わせてコーヒーをカップに注ぎ、廉くんの席に置く。
「今日はフレンチトーストにしましたー。甘さ控えめ、はちみつを使った自然な甘さにこだわりました」
廉くんは無言で席につく。
用意されたナイフとフォークを持つと「いただきます」とつぶやくように言って食べ始めた。