跡にも咲にも




最初に反応したのは彼だった。



私はいつ会っていたのかを、しわのない脳みそで一生懸命考える。


この声は確実に聞いたことがある。


それは間違いない。


しかしいつだったかは思い出せない。



それにこんなに顔が整ったイケメンなのに、忘れるなんて相当もったいない。



「むむむ」と考え込んでいると彼は小さく首をかしげて私を見た。



「……覚えてませんか?卒業式」


「卒業式……?」



私はつい半年前に記憶を戻した。



卒業式は感動の嵐で涙が止まらなくなって…、それでトイレに行って…。




「……あぁ!」



私はやっと思い出した。



男子トイレに入ってしまうという大失態の時に遭遇してしまった人。


あの時は焦っていたからよく顔を見ていなかったけど、



「(……こんなにかっこよかったんだ…)」



まじまじと見てしまった。



すると彼はバッグを持つ私の手を見た。


そして視線を私の顔に戻す。




「……もしかして、帰るんですか?」
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