名前を呼べない。
視線の先。
桜の木が紅葉に染まる。

最寄り駅から
落ち葉の絨毯を歩いて10分。

「歴史があります」感を漂わせたオフィスビルが建っている。

誰もが知る某大手の企業で、
ビルに颯爽と入っていく社員たちの姿を通行人が横目で見ている。

(そんなにスゴいとこじゃないのに…)

憧れや尊敬の眼差しを向ける人にも、向けられる人にも辟易しながら今日も門を通って出勤する。




1階にある更衣室で着替える。

私服可なのに、決まりが多いので
いっそ制服にしてくれたら良いのにといつも思う。

ランチバッグに小銭入れと飲み物、スマホに飴を2~3個入れてフロアーに向かう。

私が在籍しているフロアーは8階で、
都会とはいえ景色が悪くはないのだが
窓が少なく常にブラインドが閉じられているのでまともに景色なんて見れない。

唯一、景色を眺められるのは書庫だけ。

だが、埃っぽく
あまり長居は出来ない。

(まだ前の部署は、休憩所から空を眺められたんだけどな…)

異動してきたのが昨年の10月。

都心の部署に異動となり
花のOLデビューを期待していたのだが…

建物内は寂れているし
同世代の子たちは既婚者だし
まず定時に帰れない。

渋谷も新宿も通っているのに
仕事が終わる頃には疲れ果ててしまい
直通電車で真っ直ぐ帰宅する日々。

冬の澄んだ空気の中、
空に浮かぶ星たちを眺め
涙ぐみながら帰宅するのはもう何度目か…

転職を考えなかった訳ではない。

だが、人間関係さえ除けば
この会社は好条件なのだ。

なので、ハローワークへ行ってみたり
求人誌を眺めていても今と比べてしまい
結局我慢という結果に辿り着く。

それでも不平や不満は尽きることなく
ふいに転職や退職を考えてしまうのだけど…
< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop