俺は今、見知らぬ女に壁ドンされている
下を向いて小さく呟くとーー男が突然、あたしを抱きしめてきた。



その腕の意外な力強さと暖かさに、あたしは目を瞠る。



「………なによ、いきなり」


「いや、濡れて寒いかなと………」



しどろもどろに下手な言い訳をする男。


なんか、かわいい。



「濡らしたの、あんただけどね」



と小さく笑って言ってやると、男は口をへの字に曲げ、囁くような声で



「………あんた、名前なんてーの?」



と訊ねてきた。



「蘭」



すぐに答えると、男は「ふうん」と呟き、「俺は」と名乗ろうとした。


でも、その必要はない。



「豪くん、でしょ?」



さっき電車の中で、独り言で言ってた。


志織ちゃんにそう呼ばれてたんでしょ?




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