潰れたリップクリーム。
長谷部と交代する様に教室に入ってきた巧先輩。
「久しぶり」
「そう…ですね」
「…敬語はなしだろ?」
出会った頃を思い出す。
『敬語はなしね』
「元気にしてた?」
「うん…巧先輩も元気そうだね」
「まぁな。来週からセンターだし精神的には元気じゃないけどな」
先輩は苦笑いすると、さっきまで長谷部が座っていた席に座る。
「凜もほら、座って」
「うん…」
先程まで座っていた長谷部の席の隣に座る。
隣同士に座ると、無言の空気が流れる。
その空気を壊したのは巧先輩からだった。
「付き合ってた頃さ、ずっと思ってたんだ。
凜とこうして隣同士で授業を受けれたらなって」
「あたしもだよ…」
授業中、何度思っただろう。
巧先輩と同い年で同じクラスで隣同士だったらって。
叶わない願いを何度も想像して願った。