私、立候補します!
1 女は愛嬌?彼女は度胸!
ライズ国、ノーランド子爵領。
他の子爵領よりも狭く、王都からはだいぶ離れた田舎とも言えるその地は今日もまた平和な時間が流れていた。
「エレナ姉ちゃん今日は何するの?」
子供達が一人の女性のまわりに集まり、目を輝かせて笑顔で見上げている。
数日の間降り続いていた雨はあがり、青空の中を雲がゆったりと流れていく様子に水色のぱっちりとした目をやりながらエレナは考えた。
(雨が続いたから畑仕事は出来ないし、少し歩いて山に出かけるのもまだ足場が悪いしなあ……)
寒い冬が終わりを迎え、季節は春を刻み始めている。
そろそろ畑の準備をと思っていた矢先の雨で、体を動かせると思っていたエレナはがっかりとしたが幼い時から自他共に認める雨女のため切り替えは早かった。
子供達の視線を感じながら外は諦めて家の中で過ごそうかと考えた矢先、自分の名前を叫ぶように呼ぶ声が聞こえて後ろを振り返った。
小さな姿が段々と大きくなり、エレナと同じ茶色の髪と水色の目を持つ少年が目の前で息を切らしながら立ち止まった。
「ジル、そんなに急いでどうしたの?」
「はあっ、は……っ。姉さん、今すぐ家に帰るよ……っ」
「え……?」
不思議そうにする子供達の間を通り、ジルはエレナの腕をつかんで足早に歩き出す。
エレナは引っ張られる形のまま後ろを見て子供達に謝り、ジルの様子をうかがった。
(ジルが焦ってるなんて珍しい。何があったんだろう?)
体を動かすのが好きで仕事をしている大人に頼まれて子供達とよく遊んでいるエレナとは違い、ジルは日々勉学に励んでいるタイプで取り乱すことは滅多にない。
そんな彼の様子にエレナは心臓の妙な鼓動を感じて黙ってついて行った。
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