私、立候補します!
長さのあるロッドの先は馬上でも男達に届き、エレナはあっという間に男達に攻撃をお見舞いして気絶させていく。
突然のエレナの行動に盗賊達は呆気にとられて為すすべもなく地面に伏していった。
「はぁっ、はぁっ……」
(終わった……?)
馬を落ち着かせてまわりを見渡すと五人は倒れたままで動く様子は見られず、そのことにエレナはほっと胸をなで下ろした。
(念のために持っててよかった)
護身のためにエレナは日頃から折りたたみのロッドを持ち歩いていた。
サセット国に向かうにあたり必要ないかと思われたが、携帯していて心底よかったと思う。
馬からおり、ロッドをつけていた場所にしまって馬の顔を撫でていると御者が慌てて駆け寄って来た。
「ご無事ですか!」
「私は大丈夫です。御者さんは大丈夫でしたか?」
「エレナ様のお陰で助かりました。なんとお礼をしたらいいか……」
眉を下げて今にも泣きそうな御者に驚きながらもエレナは笑みを浮かべる。
未だ心臓は速い鼓動を刻んでいるが御者に余計な負担はかけたくない。
エレナは自分一人を逃がそうとしてくれた気持ちがとても嬉しかった。
「それでしたらラディアント様のお城に着くまで馬車の運転を――」
急に感じた息苦しさ言葉を途切れさせ、エレナは辺りの男達に視線を走らせる。
すると倒れていたうちの一人がふらふらと立ち上がって片腕をエレナに向けて上げていた。
「甘かったな。嬢ちゃん余所者か? 俺たちゃ魔術が使えるのさ」
にたりと不気味に笑う男が手を握りしめる動きを見せる。
たちまち首がさらにじわじわと絞まる感覚に、両手を首もとにあてたエレナはぱくぱくと口を動かして喘いでしまう。
目の前で慌てる御者に声をかけたくても声を出すことが出来ず苦しさから目に涙が浮かんでいく。
初めて体験する死への恐怖にエレナはどうすることも出来ない。ただただ脳裏に浮かぶ家族や領民の姿に焦がれながら嫌だ嫌だと声にならない気持ちを心で叫ぶ。