私、立候補します!
今はゆっくりお休みと柔らかな声色で伝えたラディアントがアレクセイの手を離したところで扉が軽く叩かれ、開いた扉の間からチェインが顔を出した。
ラディアントは振り返ってチェインに気づくと後ろに控えていたエレナの横を通り、扉の近くで言葉を交わしていく。
「ラディアント様。様子はどうですか?」
「落ち着いていて今のところ心配はなさそうだ」
「よかったですね。こちらも近くにいた兵士達から様子を見て回っていますが、今のところ共通している彼に会ったことから忘れている以外は異常はなさそうです。まあ、争って怪我を負っている者はいましたが、いずれも癒術ですぐに治った者ばかりでした」
これから使用人など城内の者も様子を見てきます、と話すチェインにラディアントはよろしく頼むよと肩をとんと叩いた。
チェインは疲れを感じさせない笑顔でお任せ下さいと笑う。
エレナはアレクセイとラディアント達との間あたりの位置に立ちながら、上司と部下のやりとりに感心した。
エレナはラディアントのところへ来るまでに幸い事件に巻きこまれたことはなく、二人が交わしているようなやりとりを間近で見たこともない。
けれど、それほど長い時間を共に過ごしていないエレナにも二人の間に絆があるのをうかがえ、少しだけ羨ましいという思いが生まれていく。
家族ではなく、領民でもなく、組織で結ばれたエレナの知らない繋がりが、彼女にはまぶしく見えた。
「――……る……」
(? 今小さく声が……?)
ラディアント達のやりとりが終わるの静かに待っていたエレナは小さな声を耳に拾って気づく。
この場にラディアント達ではない第三者はエレナ以外にはアレクセイしかいない。
そう思って顔を動かそうとしたエレナは視界に雪がちらついたことに気づき首を傾げた。
(何で室内に雪が――何これ……!)
雪がちらつく量は急激に増し、エレナの足元にまとわりついてくる。
エレナはラディアントとチェインの方を向いたが、彼らは体中に雪がついていることにまったく気づく素振りを見せない。
(そんな! ラディアント様達には見えてないの?)
エレナは体を動かしながらアレクセイの方を向き、目を見開いた。
アレクセイの目が再び青色に輝き、鋭くラディアントを見据えている。
先ほどまで伸ばしていた手から雪が次々と現れ、その矛先はラディアントを中心に向いていた。