私、立候補します!
ラディアント様のためにも事の詳細を話し合うためにも。
二人はそう思い再び同時に息を吐き出した。
***
(早く目を覚ましてくれ……)
ラディアントはベッドの横に椅子を置いて座り、エレナの手に触れながら祈るように何度も心の中で呟く。
エレナの目は固く閉じられたままで、ラディアントが求める空のような水色はまぶたに隠れて数日が過ぎている。
ラディアントは自身がかつてないほどに他人を心配していることは自覚していた。
幼い頃から面倒を見てくれた年配の侍女が二十歳を迎える前に亡くなった時以上に気が落ちこむのを止められない。
目覚めを待つ間に浮かぶのはエレナの元気な姿と血の海に横たわる力ない姿。二つの様子が交互に浮かんではラディアントの心を揺らす。
(短期間でここまで誰かに惹かれるなんて――)
剣が刺さって血に染まりゆくエレナを見た時、自分の身を裂かれたかのように衝撃を受けたことはラディアントの中に残っている。
ラディアントは触れていたエレナの手をブランケットの中にそっと戻し、同じ手を伸ばして今度は額近くの柔らかな髪に触れた。
さらさらと指の間をすべる茶色い髪の感触さえ、エレナの物だと思うと大切に感じたラディアントは唇に淡い笑みを浮かべていく。
(――私はもうあなたを離せないかもしれない……)
エレナの温もりを二度と感じられないと想像するだけでラディアントの胸は苦しく魔力が乱れる。
笑みを浮かべた唇はそのままに、エメラルドのような目に確かな熱がこもった瞬間だった。