私、立候補します!

「いい? エレナ。あなたに行きたいところがあるのなら、強い思いでこの扉を開けなさい」

「え……」

「そうすればきっと戻れるはずよ」

「母様……」

 エレナは扉を見て再度母を見る。すると彼女は目を細めて優しく微笑んでいた。
 以前の夢とは違い、目の前に立つ人は現実と相違のない母親の姿でエレナは満面の笑みを返す。

「――行ってきます。母様、父様、ジル。どうかお元気で――!」

 母、父、ジルを順に見ればそれぞれが笑顔で頷いてくれて。
 絶対に戻る、そう強く信じてエレナは扉を勢いよく開けた。

「!」

 開けた瞬間にまばゆい光がエレナの体を包みこみ、上に強く引っ張られる感覚に彼女は身を任せていった――。


***


「――……っ……」

 流れに身を任せ続けたエレナ。
 再び意識が浮上し、まぶたを震わせてやがて開いていく。
 見慣れない天井が視界に広がり、戻ってこられたのだろうかとエレナは顔を横に動かして確信に変わった。
 ベッドの端に上半身を寄りかかるようにして眠るラディアントの姿にエレナはほっと安心した。

(戻ってこられてよかった)

 時間の経過と共に頭が冴えて視界もはっきりとしてくると、ラディアントの顔色の悪さが目につき息を飲む。
 近くにある寝顔を見つめれば幾分やつれた様子が見られ、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 本来なら容易に姿を見ることも叶わない相手に助けられ、こうして自分の近くにいてくれた。
 何をしたら恩を返せるのかは未だに分からないけれど、エレナは自分に出来る限りことはしたいと胸に誓った。

(……えーと、どうしたらいいかな……)

 誓いを立てたまではよかった。しかし、すぐ横で眠るラディアントがいる状態で動くことも出来ず、エレナはどうしようかと考える。
 窓から差しこむ光から日中だろうと判断したエレナはラディアントの目が覚めるか誰かが部屋に来るのをまずは待つことに。
 その間、ラディアント達に伝えたいことを思い出していく。

(アレクセイ君の様子がおかしい間は目が金色じゃなくて青く光ってた。それに部屋の中に出された雪は私にしか見えなくて、雪がまとわりついて動けたのは私だけ……。うーん、出身国が違うからかな? ……これ以上は分からないや)

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