私、立候補します!

 ラディアントが信じられない気持ちでクリスに話せば、彼は顎に手をあててエレナを見つめる。

「ノーランドさん。気分が悪くなったりしていませんか?」

「いえ。癒術を受ける前は動くと痛みがありましたが、今は動いても大丈夫です」

 エレナは腰をひねって腹部に力を入れたり両腕を動かしたりしてみるが特に痛みは感じなくなっていた。
 自分はよくなったと体を動かして見せる途中、くらりと目眩がして近くにいたクリスに支えられる。

「怪我がよくなっても数日の間眠っていて体力は落ちていますから、あまり無理はいけませんよ」

「すみません……」

 調子づいて動きすぎたことをたしなめられ、エレナは恥ずかしさから頬を少し熱くする。
 クリスによる診察の結果、体力の回復と普段の食事に戻すことを考慮してさらに三日は安静にと言い渡されてエレナは今度こそおとなしくして頷いたのだった。


***


 エレナの静養を何事もなく終えてニールの城を去る前夜、ラディアントとチェインはニールと共に執務室で今回最後の話し合いの場を設けていた。
 今日の日中にエレナとアレクセイからそれぞれ話を聞いた三人は言葉を交わし合う。
 アレクセイが夜間に窓から見た一カ所だけ激しく雪が降っていたという場所もその他の場所もそれ以降異常はなく、アレクセイや兵士など城に住まう者に異常もない。
 ニールはアレクセイが不審な物に警戒せずに易々と近づいたことに苦い顔をした。

「体の負担を考えて触れないと他者の魔力や魔術を感じないようにしていましたが、その術が災いしたのでしょうか……」

 その雪を見に外に出たあげくに触れて体を乗っ取られるなんて、と右手でカップを持ち紅茶を一口飲んだ後にニールが呟くようにこぼせば、ラディアントはいや、と首を横に振ってみせる。
 ラディアントもアレクセイの話を聞いた当初はそう考えたが、その後にエレナの話を聞いてそれだけが原因ではないだろうと思っていた。
 一カ所だけ異常な降り方をする雪、様子がおかしくなったアレクセイが操っていた氷。
 何よりラディアントが引っかかるのはエレナだけに見えた雪とアレクセイの目の色の違い、そして自分達には見えない雪に体の自由を奪われた際にエレナだけが動けたこと。
 加えてクリスの癒術が後日エレナの怪我に効果があったこと。

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