私、立候補します!
「推測にすぎませんが、アレクセイの意識を捕らえて体を動かしていた者は、魔術や魔力に対して影響する何かしらの能力や対策を持っていたのではないでしょうか」
エレナはライズ国の人であるしクリスはライズ国とサセット国の両親の間に産まれたハーフであり、今の段階ではそれが一番有力な情報だと考えた。
ラディアントの言葉にチェインもニールも否定することなく頷いてしばしの静寂が室内に訪れる。
三人はしばらく口を引き結んで無言を続けたが、やがてラディアントがソファーから立ち上がり、靴音を響かせ静寂を終わらせていく。
窓がある場所に足を止めた彼は目を細め、闇に包まれている外を見据えた。
(氷や雪を操る人物。それにあてはまる者達の国は近隣にただ一つ――)
「ネーヴェ国に対する警戒を今後さらに強化する必要があるかもしれません――」
その際は今以上のご協力をお願いしますとラディアントが続ければ、ニールの是と答える声が間を置くことなく夜の空間に凜と響いていった。
***
翌日、ラディアントの城に戻るためエレナ達は午前中に支度をすませて城の前に集まった。
外は来たときと変わらず寒さを感じるものの、太陽が雲の間から顔をのぞかせているだけいくぶん暖かい。
兵士達は先に馬車に乗りこみ、残すはラディアントとチェイン、エレナの三人のみで別れの挨拶を交わす。
「エレナお姉ちゃんまた来てね!」
アレクセイは寂しさを覚えながらも自分なりの精一杯の笑顔と明るい声でエレナの手をしっかりと握る。
温かな手を握り返すエレナは返答に困ったが、いつかまた、と曖昧な言葉を交わしていく。
ラディアント達がニールと挨拶をすませるとニールは別れる前にエレナを呼んだ。
「エレナさん。この度は本当にありがとうございました」
「あの……?」
エレナが何に対しての言葉か分からず首を傾げると、ニールは離れた位置でチェインと話しているアレクセイへと視線を送り、再びエレナを真っ直ぐ見る。
そしてエレナの右手を握り金色の目を細めた。
「――あなたが身を挺してラディアント様を庇って下さらなければ今頃どうなっていたか……。何者かに体を乗っ取られていたとはいえ、ラディアント様を傷つけていたらたとえご本人が許して下さっても処罰は避けられませんでした」