私、立候補します!
23 繋がる未来
行きとは反対の道順をたどり、城下町に差しかかったところでチェインがあーあと残念そうな声を出して馬車の窓にかかるカーテンの隙間から店の並びを眺めた。
「エレナさんにおすすめしたい店がたくさんあるのに。……ラディアント様、一つくらい寄ったら駄目ですか?」
チェインが前の座席に座るラディアントへと視線を向けるも、ラディアントは首を横に振ることで却下する。
その反応につまらなさそうに口をとがらせるチェインを振り返ってラディアントは軽く息を吐いた。
「エレナさんは怪我が治って間もないのだから今回は見送らせてもらうよ。……エレナさんもすまないね。私を庇ったばかりに……」
「いいえ。私は構いませんので」
ラディアントの隣に座っているエレナは眉を下げた表情の彼にぶんぶんと片手を振り、ずっと言いたかったことを伝えようと言葉を繋げた。
「一つお聞きしたいのですが、私の治療費はおいくらほどかかったのでしょうか……?」
エレナはクリスがお大事にとニールの城を去って行った時からずっと治療費のことが気がかりになっていた。
なかなか聞くタイミングをつかめずにいたため、この機に思い切って聞いてみる。
輸血を行ったことも聞いているため、エレナは後日払うために聞いておきたいと思っている。
目に力をこめて問うエレナに見つめられたラディアントは瞬きを繰り返して首を傾げた。
下ろしていた長い金髪をさらりと揺らし、やがてああ、とエレナの言葉を理解する。
「治療費なら心配いらないよ。私を庇ってくれて負った怪我なのだから私が払うのが道理だろう?」
「そんなっ、せめて一部だけでも後日お返しさせていただけませんか」
ラディアントのもとへ来た際にお金はほとんど所持していないため支払いは後日になってしまうが、エレナはラディアントの配慮に感謝しつつも全額を負担してもらうのは心苦しかった。
払う、必要ない、払いたい、いらないと数回やりとりを繰り返すものの、ラディアントはエレナの申し出を受けることをしない。
困り果てたエレナは最終手段として自国に帰った際にライズ国の王太子であるレオナルドを通して受け取ってもらおうかと考え始めたが、そんなエレナの様子をラディアントが目を細めて口元だけの笑みで見つめる。