私、立候補します!
「言っておくけれど、誰かに頼んでも私は受けとらないからね」
「え……っ」
考えを見透かしたラディアントの言葉にエレナは体を強ばらせ、すすす、と視線を横にずらしていく。
エレナにとって最終手段となる案を断られてしまっては打つ手がなくなってしまう。
何とか誤魔化さなければと必死に考えてみるものの何も浮かばず、その上言葉をつまらせて視線をそらした際にラディアントどころかチェインにもばればれだった。
見るからに慌て出したエレナの姿にラディアントは一つの考えが生まれ、うつむいて悩み始めたエレナの右手をとって両手で包む。
手を引かれたことでエレナがそらしていた顔を再びラディアントがいる横へと上げて動かせば、彼は緑色の目を弓なりに形どって穏やかな声色を響かせていく。
「その代わりというわけではないけれど、私のお願いを聞いてほしいんだ」
「お願いですか……?」
「そう。これはエレナさんにしか頼めないことなんだ」
エレナにしか頼めない。そう言われたエレナは自分の使命感に火がつき、あいていた左手を動かして未だ自分の右手を包んでいるラディアントの手をがしっとつかむように重ねて大きく頷いた。
「私に出来ることでしたら何なりとおっしゃって下さい!」
(やっとラディアント様に恩返しが出来る!)
めらめらと燃え上がる気持ちに笑顔も浮かぶエレナ。
ありがとうと微笑むラディアントをきらきらと目を輝かせて見る彼女の横顔を後ろで見ていたチェインは心の中であーあとつぶやいた。
(エレナさんはお礼代わりに何か出来ると喜んでいるみたいだけど大丈夫かな……)
ラディアントとつき合いの長いチェインには彼が何を頼もうとしているか大体の察しはつく。
せめて選択肢をあげるためにエレナさんに言葉の言い直しをさせてあげようかな、と思っていると、ふいにラディアントがチェインへと視線を寄越して笑みを消した。
一瞬ぴりぴりとした空気を肌に感じたチェインは引きつった笑みを浮かべた後、視界を前方の二人から再びカーテンの隙間から見える景色へと移していく。
(エレナさんごめんね。さすがに僕も主人の大きな怒りは買いたくないや)
未だちくちくとした視線を感じながらチェインはエレナへ声を出さずに謝り、がらがらと走る馬車が奏でる音に耳を傾けていった。