私、立候補します!
(何か役に立ちたい。だけど魔術は使えないし私の力じゃロッドだけでは力不足だし。かえって私はいないほうがいいんじゃないのかな……?)
今まで恩返しをしたいと思ってラディアントのもとで過ごしていたが、これから今回のような有事が起きるのだとしたら自分は速やかに自国へ帰るべきなのではと思った。
魔術を使えない、戦える力もないほうに近いエレナは守られる側。それなら今ここでラディアントに伝えた方がいいのでは。
急にそう思いついたと同時に感じるいくぶんかの寂しさを抱えてエレナは言葉を続けようともう一度口を開いた。
――しかし、射抜くようなラディアントの眼差しとぶつかることでエレナの言葉は放つことなく口を閉じていく。
真っ直ぐ自分を見る表情が怒っているかのように見え、エレナはじっと見つめ返すことしか出来ない。
そのまま時間が数秒流れ、やがてラディアントが視線をそらしたことで終わりを迎える。
ラディアントは軍服の上着のポケットに手を入れて小さな箱を取り出し、その箱をエレナに差し出した。
開けてみてと言われて小さな箱を開ければ、エメラルドがあしらわれているシルバーの指輪が姿を見せる。
「この指輪をエレナさんにどうか受けとってほしい。これが私からのお願いなんだ」
「ラディアント様……」
シンプルながらも綺麗な輝きを放つ指輪の登場にエレナは目を見開いてラディアントの名前をつぶやくことしか出来ない。
(確かに私に出来ることは言ってほしいって言ったけど、まさかこんな展開になるなんて……!)
エレナは動きやすい服装を好み、ドレスは必要最低限の物しかなく化粧品も同じ。
香の類は苦手なほうで、アクセサリーは母から譲り受けた物と父からプレゼントされた数点のみ。
父親以外の男性からプレゼントをもらった経験はなく、エレナは目をぱちくりとさせて驚く。
しかも指輪となればイヤリングやペンダントなどとは違う意味合いを持つのではないかとエレナは戸惑った。