私、立候補します!
開けた小箱を持ったままの状態で思わず固まるエレナ。
ラディアントはその様子に眉尻を下げ、瞳を揺らして首を傾げる。
「私からの贈り物は嫌かい?」
「そんなっ、嫌なんてことはありません! ただ、私がこのような物をいただいてよろしいのかと思ってしまって……」
「私はエレナさんに贈りたいんだ」
自分を不安そうに見上げる彼女にラディアントは柔らかく笑ってエレナが持っていた小箱を一度受け取り、台座から指輪を外して片手で持ち小箱は自分の膝の上に。
そしてあいている手でエレナの右手を持ち上げた。
「受け取ってもらえるかい?」
穏やかに笑いかけられ、綺麗な笑みにエレナは半ばぼんやりと頷いてしまう。
ラディアントは笑みを深めてエレナの右手薬指に指輪を通していく。
エレナの指には大きかった指輪が指のつけ根にたどりつくとぴたりと丁度いいサイズに縮まっていった。
「こんなに素敵な指輪をありがとうございます」
「私こそ受け取ってもらえて嬉しいよ。これであなたを正式な王太子妃候補として迎えられるからね」
「え……?」
(今何て……?)
ふふふ、と嬉しそうに笑うラディアントとは対照的にエレナは笑顔を引きつらせていく。
正式な王太子妃候補。ラディアントが放った言葉がエレナの頭の中をぐるぐるとまわり、それはまずいと指輪を外そうと左手を使って指輪を引っ張る――が、指輪は固定されたかのように一ミリも動いてくれない。
(何で抜けないの! まさかこれにも魔術が――)
ふいにサセット国王によるバングル事件を思い出し、エレナの背中に汗が流れる。
恐る恐る自分の手からラディアントの顔へと視線を動かせば、それはそれはまぶしい笑顔が待っていた。
「その指輪は私じゃないと外せないよ。騙すような真似をして悪いけど、こうでもしないとエレナさんはライズ国に帰るつもりだったでしょう? ――私はもっとエレナさんのことを知りたいし、私のことをエレナさんに知ってもらいたいんだ」