私、立候補します!
体に感覚があることに胸を撫で下ろして上半身を起こす。
天井と同じく見慣れない部屋には誰もいなくて静けさが広がっている。
(……私の部屋と比べ物にならないくらい広い部屋)
白を基調とした部屋はシンプルながらも家具や装飾品から上品さがうかがえ、大きな窓から差しこむオレンジ色の光が綺麗な色合いを作っていた。
しばしの間は部屋のすごさに驚いていたが、段々と意識がはっきりするとこの部屋にいる前の状況を思い出していく。
盗賊達に御者の男性の姿、盗賊の一人に首を絞められこと。そして最後に聞こえた馬の鳴き声。
(そうだ! 誰かに聞いて御者の人が無事か聞かないと!)
飛び跳ねるようにベッドから出たエレナは裸足のままで扉へと駆け出す。
ドアノブに手を近づけた瞬間向こうから扉が開かれて目が合う。
(――うわっ、綺麗な人……)
きらきらと輝く長い金髪にエメラルドのような目、それに似合うよう授かったかのような整った顔立ちにスラリとした高い身長。
扉が開いた先には黒い軍服に身を包んだ女性が立っていた。
「よかった。目が覚めたんだね」
ややつり上がった目がふと細められ、エレナはこくこくと首を縦に動かして答える。
パーティーなどにほとんど出席したことのない彼女にとって見ただけで圧倒されるような人に会うのは慣れていない。
そのため目の前にいる女性にも言葉が上手く出ずに口を数回開け閉めして閉じてしまう。
エレナが何か言わなければと考えていると、女性はおもむろに右手を伸ばしてエレナの首に触れてきた。
そっと首を撫でられる感覚にエレナはピクリと体が動く。
「うん、あともないし安心した」
笑顔のまま女性は右手を移動させて今度はエレナの頭を優しく撫でる。
何がなんだか分からないエレナは状況を理解出来ずに女性を見上げた。
見られていることに気づいた女性はそこで足を進めて開いていた扉を後ろ手に閉める。
「聞きたいことは色々あるだろうね。まずは一度ベッドに戻ってもらえるかな?」
それから話をしようと促され、エレナは再びこくりと頷いた。