私、立候補します!

 それからまわりを見てみると、たくさんの女性達が椅子に座って思い思いに会話に花を咲かせている。
 聞こえてくるのは自分の家はどうこうだ、このドレスはここをこだわっただとかエレナには到底参加出来ない内容で、話しかけられないようにじっとうつむくことに決める。
 エレナは他の令嬢達と違ってシンプルなワンピースを身にまとっていて飾りもなく化粧もしていない。
 一言で表すなら、綺麗に着飾った女性達の中でエレナは確実に浮いていた。
 それも悪い意味合いであることに本人は気づいているが、エレナにとって母が作ってくれたこのワンピースは何よりも好きな洋服だった。
 他国の王太子に会う目的があるので念のためにレオナルドに確認をとったところ、それくらいなら大丈夫だろうと及第点ももらっている。
 ただ、話しかけられて会話がこじれたらややこしいので、エレナは関わらないようにちくちくと感じる視線をひたすら黙殺していった。


***


(まだかなあ……)

 黙殺を続けてしばらく、きゅるきゅると小さく鳴り始めたお腹をさすって夕食への思いをはせる。
 母が倒れ、王太子の訪問、急な出立に昼食を忘れ、おまけに軽食すらとることなく今の時間まで食べ物を口にしていない。
 時間が経つほどにまだ見ぬ王太子のことよりも夕食が気になってしまい、エレナはゆるむ口元を引き締めた。

(危ない危ない。夕食を想像して口を開けてたところを王太子様に見られでもしたら、レオナルド様に怒られるかもしれない……!)

 自分が恥ずかしい思いをするのは耐えられるけれど、自分を通してノーランド家やライズ国に影響するのだけは避けたい。
 突き刺さる視線に加えて自分の内からこみ上げる空腹にも耐えなければならないのか。
 そう思い少し意識が遠のいていると急にまわりの令嬢達が色めき始めて意識をすぐに戻す。
 いつの間にか扉が開かれて、二人の青年が入って来る。
 一人は穏やかそうな印象で茶色の髪と目を持ち、もう一人はつり上がった黒い目と同色の短い髪を持ち厳しそうな印象を見る者に与え、二人はエレナから見て一番奥の一際豪華な椅子の後ろに並んだ。

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