私、立候補します!
「わっ、私はラディアント様が男性でも女性でも構いません! 正直に言いますと先ほど別れた時にもう会えないのかと寂しく思っていたので、むしろまたお会い出来て嬉しいと言いますか……」
「…………」
「あ、あの……?」
うつむいて肩を震わせ始めたラディアントを見てエレナの体に緊張感が走る。
未来の国王に対して言うのはやはりまずかっただろうか。
(怒らせるくらいなら他の人と一緒に帰ればよかった!)
顔を青ざめさせて頭を抱えこみそうになったその時――。
「――ふっ」
(え……?)
「あはははは!」
がばっと勢いよく顔を上げたラディアントが笑い出した。
広い室内に響くほどの大きな笑い声にエレナは呆気にとられて口を半開きの状態にし、未だ笑い続けるラディアントを凝視した。
「ラディアント様。彼女が驚いていますよ」
エドワードがラディアントの肩に軽く触れると、彼はひーひー言いながら笑いを何とか押し殺して目尻に浮かぶ涙を拭う。
「悪かったね。まさかそんな風に言ってくれる人がいるなんて思わなくてつい笑ってしまったよ」
「はあ……」
「とりあえず夕食にしようか。詳しい話はその後に」
間もなく次々と運ばれてきた夕食の豪華さに圧倒されながら、混乱を残しつつもエレナはようやくお腹を満たすことが出来たのだった。
***
「それでは詳しいことを教えるよ」
夕食後に自らの執務室にエレナを案内してソファーに座らせた後、執務机の椅子に腰かけたラディアントはにっこりと笑う。
机に肘をついて両手を組んだラディアントは慣れた様子で理由を話し始めた――。
「――それでは女装じゃなくて本当に女性の体になってしまうんですか……!」
話を聞き終えたエレナは信じられないとばかりに目を開いて声をあげる。
サセット国の王太子が女性の気持ちを学ぶために女装をしているというのは体のいい理由であり、本当は初代国王と王妃にかけられた魔女による不完全な魔術の影響で、代々王子の内の一人がある程度成長すると女性の体になってしまうというものだった。