私、立候補します!
従兄弟の会話にここでラディアントが口を挟んだ。
手は絶えず動いているが、その声色は確かに厳しさを含んでいて二人は気まずげに目を合わせる。
「彼女はもう少しで魔術で絞め殺されるところだった。魔術を見せて思い出させたくはない」
「……珍しく肩を持ちますね。そんなに魅力的な方なのですか?」
チェインが笑みを引っこめて問いかけてもラディアントの手は止まらない。
エドワードも静かにラディアントの様子をうかがうが、ラディアントはそれきり話さなかった。
(魔術によって恐怖心を植えつけられる人は少なからずいるから、僕だってラディアント様の言うことは分かる。だけど、彼女を王太子妃候補にするつもりならそうも言っていられないはずなのに)
魔力が非常に高くて魔術のみに殊更に特化している魔女や魔術使いなどと呼ばれる者は少数だが、サセット国において魔術は遥か昔から生活と共にあって切り離せないものであり、それに対応出来ない者がこの国で暮らしていくのは難しい。
過去にも他国出身の王太子妃候補は何人かいたが、みんな魔術に恐怖を覚えて自国に帰ってしまった。
今回国王のはからいによる募集で来た令嬢は大半が国内の女性であったが、ラディアントが女性だと知ると説明を入れる前にあっさりと帰ってしまった。
ラディアントに会った時点で、王家に代々受け継がれる呪いについての詳細を知らない者へ他言できないようにする魔術がかかるため漏洩の心配はないが。
(部下としては早く身をかためてもらいたいんですよ)
今回残った人物が吉と出るのかそうでないのか。
出来ることならいい方向へ向かってほしいと、チェインはエドワードと視線で会話をするのだった。
***
(うーん。眠れない……)
その日の夜、エレナは与えられた部屋で時間を持てあましていた。
実家にいる時は体を動かしたり大量の本を読んだりしていたので夜はぐっすり眠れていたのだが、こちらに来てからはほとんどのことを侍女や女中がしてくれるので疲れることのない体はそうそう休んでくれない。