私、立候補します!
柔らかな笑顔でいる姿を思い出すと急に会いたい気持ちが胸に広がり、エレナはうつむいてしまう。
「どうしました? どこか具合でも……?」
慣れない環境に体調を崩したのかと心配したエドワードにエレナは顔をあげて笑みを作った。
「いいえ。家にいる家族のことを少し思い出してしまっただけです」
(一生会えないわけじゃないし寂しがってる場合じゃないんだ。癒術薬の分は必ず何かで返さないといけないしね)
エドワードは体調を崩したわけではないことに安堵し、次いで彼女の事情について考えてみる。
ライズ国からの立候補者を預からせてもらう間の報酬について、現金や宝石などではなく、出来るだけ多くの癒術薬を通常よりも安く至急輸入させてほしいと後日希望があったのだ。
その時は何故癒術薬なのかと首を傾げたが、エドワードは目の前にいるエレナの様子から大体の事情を察する。
(母親の話をして急に様子が変わった。家族の誰かが病気や怪我をしているといったところか……。ライズ国王達は彼女の希望を受け入れる条件に立候補者としてこちらに送り、さらにそれに便乗して癒術薬を安い価格で大量に仕入れたと)
エドワードは執務に加え夜間にひたすら癒術薬を作って疲れ果てていたラディアントの姿を思い出して顔を歪める。
癒術薬は魔力の高い者でないと作れないため、いつもは王族や王族の魔力量に近い誰かが作っている。
戦のあった頃には最強といわれる魔女達に大量に強力な癒術薬を作らせたことがあるが、彼女達が作る物は一般の人には強すぎるらしかった。
戦帰りの軍人が持っていた強力な癒術薬を家族や知人に渡し、後に心臓破裂で命を落とす者が次々と現れ、原因を突き止めた結果魔女達が癒術薬を作ることは以後禁止となっている。
手伝おうかと言う王達に断りを入れ、今回はラディアント本人が自分だけで作ると決意は固かった。
(全員駄目になるかと思った中でのたった一人だからラディアント様も引き止めたかったのだろう。かなり無理をされたようだが……)
目の下に隈を作り、髪の輝きを失い、うつろな目で執務や薬作りをこなす様子は大変痛ましかった。