私、立候補します!
7 臣下の思い
「ラディアント様はどこにおられるんだろうね」
私用を終えて執務室まで戻って来たチェインに間近でにこにこと見られ、エレナは引きつった笑顔を張りつけた。
エドワードからサセット国についての話を聞いたりしていると扉が開かれ、ラディアントかと思ってエレナはその場で立ち上がったが室内に入ってきたのはチェインだった。
エレナとエドワードの姿に目を丸め、次にはへえ、と声をもらしてエドワードに視線を定める。
細められた目とつり上がった口元をのせて顔を向けてくる従兄弟に、エドワードは小さく息を吐いて見つめ返す。
するとチェインはラディアントの執務机に足を向かわせ、机上にある書類を数枚手にとった。
「次の仕事を用意しておくなんてエドワードらしいね。だけどこれをこなされる人はどこに行ったの?」
会わせに行かせたはずのエレナさんはここにいるし。
問いかけるチェインにエドワードはエレナを一度見やって言葉を出す。
「入れ違いになったようだから待っていてもらっていたんだ。――しかし、それにしても遅いな……」
探してくる、とソファーから立ち上がって歩き出す彼の背中に声がかかった。
「それなら僕にいい考えがあるよ」
***
(何でこんなことに……?)
自分の雨女ぶりを謝ろうと執務室を訪ねたはずのエレナは何故か着替えて長い廊下を歩いていた。
エドワードを引き止めたチェインは一度執務室を去っていき、すぐに両手に何かを抱えて戻ってきた。
チェインはソファーに座っているエレナの前までくると抱えていた物を広げる。
すると、広げた物は綺麗な色合いの一着のドレスだった。
エレナの目の色に近い水色のドレスはフリルがあしらわれ、胸元部分は胸が露出しすぎないようにレースがほどこされていて可愛らしいが、そのデザインはエレナが着ることを避ける部類に入る。
可愛いでしょう、とよく見えるようにドレスを動かすチェインがきょとんとするエレナに着るようにと強引にすすめてきたのである。