私、立候補します!
理由もよく分からない突然のことを断るのはおかしくはないはずなのに、眉を下げて首を傾げて困った様子を見せたチェインは扉の方に顔を向けて大きい声で侍女を呼びつける。
すると三人の侍女がすぐさま入室して来て、エレナが身につけていたワンピースをひんむく勢いで脱がせていく。
その時顔を瞬時に真っ赤に染めて足早に部屋を出て行ったエドワードと、出来たら教えてね、と笑顔でゆったりとした足どりで従兄弟の後ろをついて行ったチェインの対照的な様子は当分忘れられそうにないと思ったのだった。
(私にラディアント様を見つけてきてほしいだなんて……。チェインさんは何を思ったんだろう)
慣れないドレスを着せられ、せっかくのドレスだからと薄く化粧もほどこされ。
チェインの考えがよく分からないままふらふらとラディアントを探し歩いた。
***
「チェイン。私用とはさっきのドレスを買いに行っていたのか?」
再び執務室にて。大量の書類をテーブルに置き、ソファーに座った状態で書類の仕分けをしながらエドワードは向かいに座るチェインに声をかけた。
エレナに会うようにとラディアントを執務室から半ば追い出すように退室させた後、エレナつきの侍女をわざわざ呼び出して何やら話をしていて。
それからとってつけたように用事があったと言い出したチェインを彼は訝しんでいた。
チェインは笑みを深めて名案でしょう、とはずんだ声で返す。
「ここのところ働きづめだったラディアント様へ僕達からのささやかなプレゼントだよ」
(少なくともエレナさんのことは嫌じゃないみたいだったからね。彼女はシンプルな服装が好きみたいだけど、せっかくだからここにいる間に着飾る楽しさを少しでも知ってもらいたいし)
「……まあ、あわよくばエレナさんがここでの生活を気に入って長くいてくれるように色々しようかなって思っているんだ」
「そういうことだったのか」
「うん。どう転がるか先は見えないけどね」