私、立候補します!
(もうそろそろ日が沈むから夕食は近いよね……。でも疲れているならこのまま休ませてあげたほうがいい? うーん、軍の人は気配に敏感だって聞くけど普通に起こして大丈夫なのかな……)
ぱっとみて剣は見あたらないが、せめて護身用の武器ぐらいは持っているだろうと考える。
仮に起こして敵だと思われ、武器や魔術を使われたら防ぐのは難しい。
(ロッドはあるけど王太子様を相手に私の腕じゃ意味がないし。何かを盾にして起こす? ――ううん。きっと役にたたないし、私物じゃないのにそんなことをしたらいけないよね)
そうこうしている内に夕日は沈んでいき、気がつけば月が輝き始めていた。
(嘘! 悩んでる間に日が沈んじゃった――!)
焦って窓に張りつくようにして空を凝視すると、星と月が綺麗に見えて――そこでエレナははっとして未だ眠っているだろうラディアントを勢いよく振り返った。
日没直後に空に月が見える――それはラディアントが男性の姿に戻れる唯一の条件。
(わぁ……っ)
ラディアントの体が淡い光に包まれ、ほんの数秒でそれはおさまる。
軽く遠目に見ただけでは分かりにくい。しかし、知らずついていた魔術が使われている部屋の明かりの中で椅子から立ち上がって近づいて姿を見れば少し前までとは体つきが違っていた。
黒い軍服は魔術がかかっているのか丁度よさそうなサイズになっている。
かけられていたブランケットがずれていて、見える広い背中や大きな手などは先ほどまでと違う。
今までは異性という実感がなく姉のような存在だと思っていたが、変化を目の当たりにしたことで彼は男性なのだという事実が胸にすとんと落ちてきた。
女性にしてはとても高いと感じていた背丈は本来の身長と同じだったようで髪の長さも変わらない。
(……どうしよう。声をかけて姿が戻ったことを知らせたほうがいいよね……?)