私、立候補します!
エレナがラディアントの所に滞在している中で初めて戻れたのだから嬉しいはずである。そう思ったエレナは覚悟を決めて声をかけようと息を吸った瞬間――。
「ラディアント様ー。 お戻りになられましたか?」
扉を勢いよく開けてチェインが現れた。
驚いて体ごと後ろを向くエレナと未だ眠っているラディアントの姿を交互に見た彼はなぁんだ、と拗ねた子供のように口を尖らせる。
「侍女からおしゃれをしたエレナさんとラディアント様が寝室にいるって聞いたから、適度な時間で止めに来てあげたのに」
何もないのも面白くないね。
チェインは自分の言葉の意味をよく分からずに首を傾げるエレナの横にすたすたと歩いてきて主の寝顔を見下ろした。
「ラディアント様はどのくらい寝ているの?」
「えぇと……。夕暮れ前からになりますね……」
「途中で起きたりした?」
「いいえ。一度も起きられません……」
エレナの言葉にチェインは目を見張って腕を組む。
ラディアントは王族であり軍人でもある。気配には特別敏感で、いつもなら部屋で寝ている際に静かに扉を開けてもすぐ目が覚めることが多いのだから。
(目の前で会話をしても起きないなんて――)
よほど仕事によって疲れたのか、女性の姿が続いたことが精神的にこたえたのか。両方か。
それとも――。
(エレナさんに何か力が……?)
隣に視線を向けて見上げてくる彼女をじっと見るが魔力の類は感じられないし、パッチリとした目は真っ直ぐで澄んでいる。
人の感情は言動だけではなく魔力の流れや目にも表れることがあり、少なくとも今のエレナには怪しい所は見られなかった。
(とりあえずこの件は置いておこう。……夕暮れ前からなら仮眠は出来たろうしそろそろ起こしてもいいよね)
次の行動を決めたチェインはエレナににこりと笑みを浮かべた。
そして――。
「ラディアント様ー! 夕食の用意が出来ましたよ!」
「わ……っ!」
大声でラディアントに声をかけ、エレナの腕を引いた後に背中を押してラディアントが寝ている方へ軽く突き飛ばした。