私、立候補します!
エレナはチェインの様子を見つめて先ほどのラディアントに動きを封じられたら時のことを思い出す。
低く冷たい声に鋭い視線。痛いほどに強くつかまれた両手首。
今はもう癒えている首筋にあてられたかたい刃の感触も覚えている。
――だけど。
エレナだと気づいた時のラディアントの表情もはっきりと覚えている。
見開いた後に揺れた悲しげな目を――。
「確かに驚きましたし怖かったです……。でもそれはラディアント様が私を敵と思われたからですよね? それなら仕方がないことだと思います」
「でも、それを差し引いても恐怖心はあるはず――」
「私、以前に本を読んでからこちらの魔術に興味があるんです」
「興味……?」
「はい! 癒術薬以外にも色々な魔術があるんですよね?」
ぜひ色々と見てみたいです、と目を輝かせるエレナの様子に目線を戻したチェインはぽかんとした後。
「――くっ。本当に君って変わってるんだね」
耐えきれないといったように肩を震わせて笑う。
(エドワードの言った通りだ。彼女がずっといてくれたらいいのに)
ラディアントとエレナが仲良く並んでいる姿を思い浮かべ、チェインはふふ、と自然と笑みがこぼれる。
(彼女みたいな人はなかなかいない)
これは本格的に彼女をとどまらせなければと胸の内で密かに決意。
まずは主への謝罪と今頃自分へ怒り狂っているだろう年下の従兄弟への謝罪をすまそう。
それから目の前で魔術への興味をしめす女性に色々教えてあげようと思うのだった。