私、立候補します!
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母の所へ行きたいのをこらえ、エレナは自室のベッドに座って未だ考えこんでいた。
しかし、うーんうーんと唸れどもいい案は浮かばず気分が落ちこんでいく。
(こんなことになるならもっと医学に目を向けてればよかった。……まあ今更どうにもならないけど)
起きてから思うなど後の祭り。エレナは悔やむ気持ちをさっと捨て、一時休憩とばかりに人目がないのをいいことにベッドに寝転がろうとした瞬間――。
「え……」
がちゃりと勢いよく扉が開いて半端な姿勢のまま父と目が合う。
慌てて居住まいを正して父を見れば彼の肩越しに誰かの姿があることに気づく。
所々に金色があしらわれている白い軍服が目に入り、父よりも高い位置にある顔に視線が向く。
さらりとした金糸の髪にアメジストのような目、国王によく似た顔立ち。――ライズ国王太子、レオナルド·ライズが笑顔で立っていた。
(えぇ――――!)
叫び声を出さなかったことをエレナは自分自身をほめたいと後ほど思うのだった。
***
固まる父と笑顔のままの王太子にエレナは立ち上がって謝罪を繰り返し、邸内に一室だけある貴賓室へと向かう。
中に入るとジルがすでに立って待っていた。
レオナルドを上座へ促し、腰をおろした所でエレナは飲み物をと部屋を退室しようと試みる。
(子爵位の家に王太子様が直々に来るなんて嫌な予感しかしないんだけど!)
普通なら王太子本人が子爵の家に来るなんてありえないとエレナは思う。
父の表情が困惑気味なことから事前に約束していた訪問ではなさそうでエレナはますます嫌な予感がする。
「すまないけれど急ぎの話なんだ。飲み物はいらないよ」
「……分かりました」
あっさり退路を絶たれ、エレナは渋々といつの間にか座っていたジルの隣に腰をおろした。
テーブルを挟んで王太子、エレナは父とジルに挟まれる形で座っている。
レオナルドは父に視線を向けて再び口を開いた。