私、立候補します!

「これはエレナさんに見せようと思って僕が使っていた物を家から送ってもらったんだ」

 母さんが綺麗にしまっていてくれててよかった、と相変わらず笑顔の従兄弟にエドワードは無言でチェインの腕の中に手を伸ばし――抱えていた本を全部奪いとった。

「ちょっとエドワード? 返してくれないと困るんだけど」

「お前は何を考えているんだ! 昨夜お前のせいで彼女は巻きこまれたんだぞ!」

(何を考えているんだ! 彼女の傷をえぐりたいのか!)

 目を常よりつり上げながらエドワードは語気を強くしてまくし立てるように言う。
 昨晩こんこんと説教してやったのにまだ懲りないのか。
 そう思っていると本を持つことによって感じていた重みが急に失われ、目を下に向けたエドワードは目を見開いた。

(本がない……!)

 はっと顔を前に向けるが時すでに遅く、再び本を腕に抱えたチェインが少し離れた所に立っている。

「そんなに心配ならついて来たらいいよ」

「な……っ、チェイン……!」

 先に行ってるから、と言うやいなやチェインの姿が歪んで一瞬で消えていく。

「――……っ」

(どこまで自分勝手な男なんだ!)

 エドワードは丁度甘味を頼んだ侍女が自分の所に近づいて来たためラディアントのもとへ届けるように頼む。
 そして移動術が出来ないかわりに足早にチェインの後を追いかけた。


***


 ラディアントの城にはいくつか訓練場が設けられていて、その中の一つは魔術専用の訓練場とされている。
 部屋の内部の壁に強力な保護術がかけられているため色々な魔術を試しても影響は室内でおさまるようになっている。
 チェインなら本を読ませてすぐに実践して見せるに違いない。そう判断したエドワードは訓練場に真っ直ぐ向かう。
 そして保護術が発動中でないことを確認して――ドアに触れるだけで分かる仕組みになっている――訓練場の扉を開ければ、予想は的中した。
 部屋の端に座りこむ二人の姿を見つけて慌てて近づいた。

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