私、立候補します!
「チェ――」
「エドワード! 早く来て一緒に見てよ」
呼びかけを遮りチェインがエドワードに手招きをする。
早く早くと急かす姿がまるで子供のように見えていったい何事かと二人のもとへ近づくと、チェインとエレナの間に一陣の風が吹き、立っている状態のエドワードの頬をなでていった。
「今のは……?」
「すごいだろう? エレナさんは僕の依代式を使えるみたいなんだ」
「依代式……。術者の私物に魔力をこめ、発動可能な魔術と発動条件を指定して他者に使わせるあれか。というより本をきちんと読んでいただいたのか?」
「先に口頭で大体のことを説明していたから大丈夫だよ」
エドワードは自分がチェインの依代式を試した時のことを思い出して渋い顔をする。
依代式魔術は発動が一度きりで魔術の指定も一つだけという制限つきながら、他者が強力な魔術を使える便利な方法だ。
しかし、術者と使用者の相性にかなり左右されるため使わない人も多い。
(従兄弟だからと試したのが間違いだった……)
きっと大丈夫だと笑顔で指輪を渡され、恐る恐る指にはめてみる。
指輪を二回なでるだけで風が起こるからと言われた通りにやってみたが何も起きず。何度試しても何も起きずチェインには馬鹿にされたようにしばらく笑われた。
その後、血縁者から同僚、部下、上司、様々な人に頼んで試してみたがエドワードには合わない術らしく途中で諦めざるをえなかった。
――チェインに関してもエドワードのみならず他の人とも合わなかったようだが。
(それが他国のエレナさんと合うなんて驚きだ。――いや、魔力を持たないからかえって相性がいいのか……?)
エドワードが腕を組んで考えこむのをよそに、チェインはこれも試してみようとエレナの指にはめていた指輪を外し、かわりにエメラルドがあしらわれたブレスレットを右腕につけさせる。
「これはちょっと真ん中の方でやろうか」
エメラルドの輝きに目を丸くさせて見入っているエレナの腕を引いて立たせ、チェインは訓練場の真ん中あたりまで歩く。