私、立候補します!
「エレナさん……?」
「もっ、申し訳ありません! 体が勝手に――」
エレナはぶんぶんと首を左右に何度も振る。
自分の意識とは関係なしに右手がラディアントの左手を握ってしまった。
外そうとしても手はラディアントの手を強く握ったままの状況から動かない。
あまりにも力が入っている握り方にラディアントははっとした。
(まさか父上は連絡術を――?)
連絡術とはその名の通り人と人とを繋ぐ術であり、情報などを声だけをとばして伝えあったり、今のエレナ達のように単にはぐれないように手を繋ぐだけの物もある。
(エレナさんは魔力がないようだし、手が離れないことから伝達関係ではないことが分かる。しかし解除条件は何だ?)
はぐれ防止の場合は他者からの干渉を受けないよう、あらかじめ決めた解除条件があるはず。
ラディアントに送られた手紙にはそれらしき内容はなかった。
「エレナさん、父から手紙はこなかったかい?」
「手紙でしたら届きましたけど……」
エレナが左手で手紙を持って見せると、ラディアントは読んでも構わないか訪ねる。
特に読まれて困る内容ではなかったのでエレナはすぐに頷いた。
ラディアントは失礼するよ、と断りを入れて手紙を読み進めるも手がかりはなく思わずため息がもれる。
めぼしい内容が見当たらないとなると解除条件を満たすまでこのままでいるしかない。
「エレナさん、すまないけれどしばらくこの手は離れそうにないみたいだ」
「え――?」
***
その後執務室のソファーに二人並んで座り、手が離れない原因を聞いたエレナはぱちぱちと目を瞬かせて感心した。
ラディアントが申し訳なさそうな表情をしている中では口に出せそうにないが、魔術の多種多様さにますます興味がわいてしまう。
(魔術って本当にすごいなぁー。手を繋いで離れないようにする魔術まであるなんてここに来なければきっと知らなかったよね)
迷子癖のある子達には便利だなぁと思っていると、ソファーの後ろに立っていたチェインが目を細めて面白そうに離れない手を眺めた。