私、立候補します!

「端的にお話ししますがブラウンさん、エレナさんにサセット国の王太子、ラディアント氏の話し相手募集の候補者として立候補してほしいのです」

「話し相手、ですか?」

 親子三人で目をぱちくりとさせて詳細を問えば、レオナルドは膝の上で組んでいた手を組み替えて頷く。
 サセット国には他の国にはない特徴がある。それは代々次期王となる王太子が女装をするというものだ。
 詳しいことは不明だが、初代国王の息子――二代目国王が王太子の頃よりの習わしのようで、ライズ国の王太子は例外なく女装していると言われている。

(理由が女性の気持ちを理解するためって言われているけど私だったら無理だなあ。いくら女らしさが足りないって言われいても男装してなりきれないや)

 この度ラディアントがさらに女性について学ぶために国内外から話し相手を募集しているということらしく、ライズ国としてはサセット国と今よりも関係をよくするために誰かを向かわせたいとのことのようだ。

「王族関係者の中で候補者を出す予定でしたがなかなか決まらず……。そんな時にこちらのノーランド家に活発なお嬢さんがいると聞き、ぜひお会いして出来るなら候補者をお願いしたいと思いました」

 眩しいほどの笑みを向けられてエレナと父の笑みは引きつっていく。
 ジルだけが笑みを崩さす余裕の笑みでレオナルドを見つめ、エレナは弟の肝の据わりように心の内で拍手を送った。

「しかしレオナルド様。娘は確かにそれが取り柄ではありますが、国同士の関係をお考えならばいささかならず力不足かと」

(そうだそうだ! 王太子様の前でうっかり畑の話なんかした日には即刻強制送還されるに違いない!)

 うんうんと父の言葉に大きく頷いて自分には荷が重いですアピールを試みるエレナ。お偉いさんのご機嫌とりで窮屈な思いをするのは真っ平ごめんで、隣から感じる冷たい視線には知らぬふり。
 不安げなブラウン、話がなくなることに期待するエレナ。冷静に事の成りゆきをうかがうジル。
 三人の視線を受け止めてレオナルドは笑みをいっそう深く刻んだ。

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