私、立候補します!
日没をきっかけに相手の手は大きくごつごつとした物に変わったが自分が手を握り続けるのは変わりなく、エレナはそわそわと落ち着かない気持ちになる。
エレナにとって父以外の大人の男性と手を繋いだのは幼い頃をのぞけば初めてのことで、頬に熱を持ってしまう。
(女性だった時は平気だったのに……。こうして見るとやっぱり男性なんだなぁ……)
領地にいる時は父に近い年齢の男性かジルよりも年下の男の子しか目にすることはなく、部屋の明かりに照らされる姿をちらちらとうかがってしまう。
さらりとした金糸に今はふせがちに見える緑の目。女性の時よりもがっしりとした体つきに、男性にしかない喉仏。
視線を下に向ける横顔だけで綺麗な人だとエレナは感じた。
そして、同時にラディアントの近くで長い時間を過ごしたのはこれが初めてのことだと気づく。
続く無言の時間に耐えられなくなったエレナはラディアントと繋がれた手を軽く動かし、ぴくりと動いた彼に話しかけてみることにした。
「あの、お聞きしたいことがあるのですが、お聞きしても構いませんか……?」
エレナが顔色をうかがうように声をかけると、ラディアントはゆっくりとエレナのほうを向いて目をゆるませ、握っている手に力をこめた。
ラディアント自身もさずかに沈黙に耐えかねていたので少しは気が紛れるかと思った。
「私に答えられることなら構わないよ」
ありがとうございます、と返したエレナは左手を顎にあてて考える。
聞いてみたものの質問を考えていたわけではないので何を聞こうか悩む。
(無難なもの無難なもの………。よし、これにしよう)
「私には弟が一人いますが、ラディアント様にご兄弟はいらっしゃいますか?」
(サセット国はライズ国と同じで一夫一妻制だと歴史書にあったから聞いても大丈夫なはず)
エレナは自分の方を見ているラディアントを見つめ返しながらドキドキと胸を鳴らして答えを待った。
すると時間を待たずにラディアントの口が開かれていく。