私、立候補します!
(人が豊かに暮らしている中にあるならまず悪い物ではないと思うし)
「だけど……」
「以前にサセット国に関する書物を読んでから、ずっと魔術に興味があったんです」
「興味が……」
「はい! 癒術薬はライズ国に住んでいて話に聞いていましたが、直接見られる機会が出来て嬉しいです」
(風を起こしたり空中に浮いたり、一度体験しただけでもすごく楽しかった)
だから色々知りたいです、とラディアントの手を両手でつかんでいる力を強めてぎゅっと握る。
自分の手は震えていない。怖くないと伝わってほしい。そう願いをこめて。
やがてふぅ、と息を吐いて体の力を抜いたラディアントは、右手を動かし未だ握っていたエレナの左手を包んだ。
男の自分とは違う手の小ささに胸の中に温かなものを感じて自然と笑みが浮かぶ。
今までは怖がられることが多かったし、自分も怖がられることが怖くて距離を置きがちだった。
けれど、目の前の一対の小さな空を持つ人は真っ直ぐ自分を見て、震えることのない手でしっかりと自分の手に触れてくれている。
(ああ。こんなに嬉しい気持ちになったのは久し振りかもしれない――)
家族とは違う。臣下とも違う。
出会ってひと月も経っていない人だけれど。
「――ありがとう。エレナさん」
温かさをくれる目の前の女性とこれからも一緒にいたい。そんな気持ちが胸の中に生まれたことをラディアントは感じた――。